大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)8858号 判決

原告(反訴被告)

タンゴヤ株式会社

ほか一名

被告(反訴原告)

村上幸三

主文

1  原告ら(反訴被告ら)の被告(反訴原告)に対する昭和五六年一一月六日発生した交通事故に基づく損害賠償債務は、各自金六九万五、三五〇円及びうち金六二万五、三五〇円に対する昭和五六年一一月七日以降支払済みに至るまでの金員を超えては存在しないことを確認する。

2  原告ら(反訴被告ら)のその余の請求をいずれも棄却する。

3  原告ら(反訴被告ら)は各自、被告(反訴原告)に対し、金六九万五、三五〇円およびうち金六二万五、三五〇円に対する昭和五六年一一月七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告(反訴原告)のその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用は本訴反訴を通じこれを四分し、その一を原告ら(反訴被告ら)の負担とし、その三を被告(反訴原告)の負担とする。

6  この判決は被告(反訴原告)勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

原告(反訴被告、以下原告という)らは被告(反訴原告、以下被告という)に対し、昭和五六年一一月六日午後一時三〇分ごろ、大阪市北区芝田一丁目一番一号先路上において発生した交通事故による損害賠償の支払義務のないことを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

原告らの被告に対する請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

三  反訴請求の趣旨

原告らは、各自、被告に対し、金三一七万二、四七〇円およびうち金二八七万二、四七〇円に対する昭和五六年一一月七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は原告らの負担とする。

仮執行の宣言。

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

被告の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

第三  原告らの主張

一  事故の発生

原告大岡克己(以下原告大岡という)は、昭和五六年一一月六日午後一時三〇分頃、大阪市北区芝田一丁目一番一号先路上において、原告タンゴヤ株式会社(以下原告会社という)所有の普通貨物自動車(大阪四五や二六一〇号・以下加害車という)を運転し、赤信号のため同所の交差点手前で停止中、右側より左折してきた被告運転の普通乗用自動車(大阪五九に四八七三号。以下被告車という)の右前方側面が加害車右後方側面に接触した。

二  被告の負傷の部位・加療状況

右事故により、被告は頸椎捻挫などの傷害を負つたとして、同日より訴外大北病院に通院している。

三  原告らの責任の有無

本件事故は、加害車が先行車両に縦列して停止中、しかも、事故発生前には被害車走行車線を他の車両が数台通過していたのに、被告が前方不注視及びハンドル操作を誤るなどの一方的過失を犯したため、惹起したものであるから、原告らには責任がない。

四  結論

被告は原告らに対し、本件事故により損害を被つたとしてその賠償を求めるので、本訴請求のとおりの判決を求める。

第二  原告らの主張に対する被告の認否

一  第一項事実中、原告大岡運転の加害車が停止していたとの事実は否認し、その余の事実は認める。

二  第二項は認める。

三  第三項は否認する。

第三  被告の主張

一  事故の発生

1  日時 昭和五六年一一月六日午後一時三〇分頃

2  場所 大阪市北区芝田一丁目一番一号先路上

3  加害車

右運転者 原告大岡

4  被害者 被害車運転の被告

5  態様 加害車が路上北側に駐車していた宣伝車を追い越すべく、センターラインを割つて東方に進行したため、原告は加害車との正面衝突を避けようと急ブレーキを踏み、かつハンドルを左に切つたが、かわしきれず、加害車左後方側面が被害車右側面に衝突した。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

原告会社は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

原告会社は、原告大岡を雇用し、同人が原告会社の業務の執行として加害車を運転中、後記過失により本件事故を発生させた。

3  一般不法行為責任(民法七〇九条)

原告大岡は、被害車が対向車線を進行してくるのを知りながら、又は知りうべきところを前方不注視によりこれを認識せず、その運転にかかる加害車をセンターラインを割つて対向車線に進入させ、よつて、前方不注視、進路妨害により本件事故を惹起したのであるから、被告の後記損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 受傷

左肘、頸部、腰部各挫傷

(二) 治療経過

通院訴外大北外科病院

昭和五六年一一月九日から昭和五七年七月二〇日まで(実治療日数一二二日)

(三) 後遺症

被告は局部に神経症状を残して昭和五七年一〇月二九日症状固定した。

2  治療関係費

(一) 治療費 一七万三、六八〇円

(二) 通院交通費 三万一、七二〇円

3  逸失利益

(一) 休業損害

被告は事故当時五六歳で、タクシー会社などの顧問として一か月平均二八万八、〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和五六年一一月六日から昭和五七年一〇月二九日まで休業を余儀なくされ、その間二三〇万四、〇〇〇円の収入を失つた。

昭和五六年一一月六日~昭和五七年四月六日 一四四万円

昭和五七年四月七日~同年七月二〇日 四三万二、〇〇〇円

昭和五七年七月二一日~同年一〇月二九日 右同額

(二) 将来の逸失利益

被告は前記後遺障害のため、その労働能力を五パーセント喪失したものであるところ、原告の就労可能年数は昭和五七年一〇月三〇日から一〇年間と考えられるから、原告の将来の逸失利益五七歳男子労働者平均賃金をもとに年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、一三七万二、八九六円となる。

4  慰藉料

通院慰藉料 九〇万円

後遺障害慰藉料 六〇万円

5  物損 九万五、〇七〇円

6  弁護士費用 三〇万円

五  反訴請求

よつて被告は原告らに対し、五七七万七、三六六円の内金として反訴請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。ただし弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

第四  被告の主張に対する原告らの答弁

一  第一項の1ないし4の事実は認めるが、5の事実は争う。

二  第二項の1の事実は認め、かつ、同2の事実は過失の点を除き認めるが、同3の事実は争う。

三  第三項はいずれも否認する。但し、本件事故と被告の受傷との因果関係は争う。

第五  原告らの被告の主張に対する抗弁

一  免責

本件事故は被告の一方的過失によつて発生したものであり、原告大岡には何ら過失がなかつた。かつ加害車には構造上の欠陥または機能の障害がなかつたから、原告らには損害賠償責任がない。

すなわち、原告大岡運転の加害車がセンターラインより左内側に停止中、被告がハンドル操作を誤り、被害車を加害車に接触させたものである。

二  過失相殺

仮りに免責の主張が認められないとしても、本件事故の発生については被告にも前記のとおりハンドル操作を誤つた過失があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

第六  原告らの第五の主張に対する被告の答弁第一項及び第二項の事実はいずれも否認する。

第七  証拠

記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。

理由

第一事故の発生

被告の主張第一項の1ないし4の事実は、当事者間に争いがなく、同5の事故の態様については後記第二の三で認定するとおりである。

第二責任原因

一  運行供用者責任

被告の主張第二項の1の事実は、当事者間に争いがない。従つて、原告会社は自賠法三条により、後記免責の抗弁が認められない限り、本件事故による被告の損害を賠償する責任がある。

二  使用者責任

被告の主張第二項の2の事実は、過失の点を除き当事者間に争いがなく、過失の点については後記第二の三で認定するとおりであるから、原告会社は民法七一五条一項により、本件事故による被告の損害を賠償する責任がある。

三  一般不法行為責任

1  成立に争いのない甲第一、第八、第九号証、乙第三ないし第七号証、原告ら主張通りの写真であることに争いのない検甲一ないし七号証、被告主張通りの写真であることに争いのない検乙一号証、原告大岡及び被告本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く)当事者間に争いのない事実を総合すれば、次の事実が認められ、原告大岡及び被告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は右各証拠に比し措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 事故現場の状況をみると、本件道路は歩車道が区分された片方一車線の東西道路であつて、東行き車道幅は四メートル、西行き車道幅は四・一メートルあつたが、事故現場より東へ約一一・九メートル先には交通整理の行なわれている芝田一丁目交差点があり、同交差点西方一一・九メートルの東行き車線北側歩道寄りにマイクロバスが駐停車していたことから、東行き車線を通過する車両は、本件道路中央分離線と右マイクロバスとの間隔約一・八メートルの幅員を通過しなければならない状態であつた。一方、本件道路西行き車道を通過する車両も、本件事故発生地点の南側歩道寄りに普通乗用自動車(タクシー)が駐停車していたことから、本件道路中央分離線と右駐停車自動車との間隔約二・三メートルの幅員を通過しなければならない状態であつた。

(2) 被害車両をみると、車体の幅約一・六一五メートル、高さ一・三五メートルであつて、その破損状況は、車体右側(前から一五七センチ、高さ三八センチから七六センチ)が擦過、バンパーー前部右側擦過、前部右側方向指示燈が破損していた。一方、加害車両をみると、車体の幅が約一・六メートルであつて、その破損状況は、車体の右側(後部より一三〇センチ、高さ四四センチから七〇センチメートル)が擦過していた。

(3) 原告大岡は、加害車を運転して本件東西道路を西から東に向けて進行し、左側に駐停車していたマイクロバスを避けるためにやや右方へふくれ、中央分離線を約三〇センチメートル対向車線上へはみ出してのち、先行車が芝田一丁目交差点手前で信号待ちのため停車したのを認めて、その後方へ自車を停止させようと左へハンドルを切り、加害車前部は中央分離線より自車走行車線内側に停止したものの、その後部は中央分離線よりやや対向車線上へはみ出しやや左斜めとなつた状態で停止した。

(4) 被告は、被害者(左ハンドル)を運転して芝田一丁目交差点を左折し、時速約七ないし八キロメートルの速度で本件東西道路を東から西に向け進行してきたが、右交差点を左折してすぐの左側及びその前に普通乗用自動車が駐停車しているのを認めたことから、これとの衝突を避けるべく中央分離線寄りを走行していたところ、右交差点より西へ約一一・九メートルの地点に至つた際、停止している加害車右後部に被害車右側前部が衝突するという本件事故が発生した。

2  右事実によれば、原告大岡は、加害車を運転して本件道路を東進するに際し、左方に駐停車車両があり、先行車が直前交差点手前で信号待ちのため停車していたのであるから、対向車線へ自車をはみ出して対向車の進行を妨害しないように、右駐停車車両の右側幅員を考慮し、右駐停車車両の後方で停車するか、若しくは右車両に接近させて停止すべきであるのに、これを怠り、右車両との衝突を避けようと中央分離線を約三〇センチメートル対向車線上へはみ出して進行し、信号待ちをしていた先行車後部へ接近したところで停止したが、自車を左斜めの状態で停止させたため、自車右後方を中央分離線よりやや対向車線上へはみ出して停車させ、よつて対向車の進路を妨害したのであるから、原告大岡に運転操作ミス、対向車進路妨害の過失が認められる。従つて、原告ら主張事実及び免責の抗弁事実は、採用することができない。

3  しかしながら、被告においても、被害車を運転して本件道路を西進するに際し、左側に駐停車車両があり、対向車線上には加害車が停止していたのであるから、ハンドル操作を適切にし、若しくは、一時停止するなどの措置を講ずべきであるのに、これを怠り、一時停止することなく、また、ハンドル操作を適切にせず中央分離線よりを走行したため、停止中の加害車両右側後部に被害車右側前部を衝突させたのであるら、被告にもハンドル操作を誤るなど安全運転義務違反の過失が認められる。

第三損害

1  受傷、治療経過等

成立に争いのない甲第一〇ないし第一五号証、乙第一、第八ないし第一一、第一六号証、証人大北昭の証言によれば、被告主張第三項(一)(二)の事実が認められ、かつ後遺症として局部に神経症状等の症状が固定(昭和五七年三月三一日頃固定)したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、原告らは本件事故と被告の受傷との間には因果関係がない旨主張する。なるほど前記証拠によれば、被告には、事故当時から経年性の変化としての変形性頸椎症があつて、被告の治療が通常の場合に比して長期に亘つていることは認められるものの、事故前にはさしたる神経症状はなかつたのに、本件事故を契機として神経症状が顕在化していること、事故後三日目の診察の際に、頸部圧痛の他覚所見が認められたことが認定され、そうすると、被告の大北外科病院における治療のうち、右症状固定に至るまでの治療は本件事故により生じたやむをえないものというべきであるから、原告らの右主張は採用しない。

2  治療関係費

(一)  治療費

成立に争いのない乙第九、第一一号証によれば、被告は、大北外科病院において、昭和五六年一一月九日から昭和五七年七月二〇日まで合計三二万二、六一〇円の治療費を要したことが認められる。

ところで、本件事故による治療のために要した費用で、被告が原告らに対し請求しうる金員は、原則として、事故発生日から症状固定に至るまでのものに限定され、右症状固定以後の治療費については、相当因果関係がないものというべきところ、前記甲第一二ないし第一五号証によれば、昭和五六年一二月一二日以降、昭和五七年七月二〇日に至るまで、内容的にほぼ同様の通院治療がなされていることが認められ、そうすると、右期間における治療費二二万三九〇円を通院実日数の割合に応じてこれを算定すれば、右治療費の一〇三分の五八に当る一二万四、一〇三円(円未満切捨て)を昭和五六年一二月一二日以降昭五七年三月三一日までに要した治療費であつたものと認められる。

そうすると、被告が原告らに対し請求しうる治療費は、二二万六、三二三円というべきである。

(二)  通院交通費

前記甲第一五号証及び被告本人尋問の結果によれば、被告は症状固定に至るまで通院(合計七七日)のため合計二万〇、〇二〇円の通院交通費(一日の往復費二六〇円)を要したことが認められる。右金額を超える分については、本件事故と相当因果関係がないと認める。

計算式

260円×77=20,020円

6 逸失利益

(一)  休業損害

被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告は事故当時五七歳で、イワタニ興業他数社の顧問として、定期収入としては顧問料、その他の臨時収入も含め、一か月平均控え目にみると、二八万八、〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故により、その傷害の部位、程度を考えあわせると、昭和五六年一一月六日から二か月間は全期間の休業を余儀なくされ、その後は症状固定まで五〇パーセントの休業を余儀なくされその間合計九七万八、四一〇円(円未満切捨て。以下同じ)の収入を失つたことが認められる。

(二)  将来の逸失利益

成立に争いのない乙第一六号証及び被告本人尋問の結果並びに前記認定の受傷及び後遺障害の部位程度によれば、被告は前記後遺障害のため、昭和五七年四月一日から少くとも二年間、その労働能力を五パーセント喪失するものと認められるから、被告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、三二万一、五八〇円となる。

計算式

345万6,000円(年収)×0,05(労働能力喪失)×1.861(2年のホフマン係数)=32万1,580

4  慰藉料

本件事故の態様、被告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、その他諸般の事情を考えあわせると、被告の慰藉料額は八六万円とするのが相当であると認められる。

5  物損

成立に争いのない乙第二号証によれば、被告は、本件事故によつて破損した被害車をニユー関西自動車興業株式会社へ修理に出し、同社から修理見積として九万五、〇七〇円の告知を受けたことが認められ、そうすると、被害車両の修理費として九万五、〇七〇円を要し、本件事故により被告のうけた物損は、九万五、〇七〇円であるというべきである。

第四過失相殺

前記第二の三認定の事実によれば、本件事故の発生については被告にもハンドル操作不適、安全運転義務違反の過失が認められるところ、前記認定の原告大岡の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として被告の損害の七割五分を減ずるのが相当と認められる。

そうすると、被告の受けた損害合計二五〇万一、四〇三円の二割五分にあたる六二万五、三五〇円(円未満切捨て)が被告が原告らに請求しうる金額となる。

第五弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、被告が原告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は七万円とするのが相当であると認められる。

第六結論

よつて原告らは各自、被告に対し、六九万五、三五〇円、およびうち弁護士費用を除く六二万五、三五〇円に対する本件不法行為の後である昭和五六年一一月七日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告ら及び被告の本件請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂井良和)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例